九条を守る神奈川高校教職員の会

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【代用監獄問題とは何か】

代用監獄問題とは何か(上)

代用監獄問題とは何か(下)


代用監獄問題とは何か(上)

2006年04月30日20時48分 / ライブドア・ニュース

海渡雄一弁護士に聞く

代用監獄について語る海渡雄一弁護士(撮影:徳永裕介)海渡雄一弁護士に聞く
【ライブドア・ニュース 2006年04月30日】− 日本には、世界に類を見ない「代用監獄」という仕組みがある。えん罪の温床になっているとして、廃止を求める声があり、国際人権(自由権)規約委員会も、2度にわたって廃止勧告を行っている代用監獄とは何か。刑事司法に詳しい海渡雄一弁護士に聞いた。
──まず、被疑者が警察に逮捕された後、どのような処遇を受けるのですか。
 法律上は、警察に逮捕された被疑者は、3日以内に裁判官が勾留(こうりゅう)を決定すると、法務省が管理する拘置所に移されることになっています。そこで最大10日間(更に10日間、特殊な犯罪の場合には15日間延長が可能)拘禁されます。しかし、実際には監獄法が「警察官署に附属する留置場は之(これ)を監獄に代用することを得」と定めているため、被疑者は警察の留置所に入れられたままになります。これが「代用監獄」制度です。このようなスタイルは、日本にしかありません。
 日本の人は、捕まった後、警察でずっと取り調べが続くということに違和感がない人が多いと思いますが、普通はそういうことにはなりません。警察の取り調べは、ヨーロッパ基準で24時間、長い国でも48時間です。そこで、身柄が裁判所に移って、そこから警察に戻らないで拘置所に行きます。そして、そこで裁判を待つ。保釈の用件があれば、保釈にもなります。
 最近まで代用監獄があったのはトルコとハンガリーですが、いずれもここ10年以内に廃止されました。昔は諸外国にもあったはずですが、警察の下に被疑者の身柄を置くことは人権侵害の恐れが高い。自白の追及のための取り調べがずっと続くことは極めてよくありません。
 最近まで代用監獄があったのはトルコとハンガリーですが、いずれもここ10年以内に廃止されました。昔は諸外国にもあったはずですが、警察の下に被疑者の身柄を置くことは人権侵害の恐れが高い。自白の追及のための取り調べがずっと続くことは極めてよくありません。
──では、どのような取り調べが行われているのですか。
 最近は米英など外国では、取り調べを録音します。日本では録音するといったら、ものすごい量になってしまって大変だという議論があったのだけれども、外国に行ったら、一人の人の取り調べは2時間テープ一本。取り調べは何の目的でやるかというと、いじめて自白させるためではなく、その時点でどういう主張をしていたか、客観的証拠と本人の主張に矛盾があるかどうか、あとで言い分を変えてしまわれないように、そこで確認しておくことが大事です。
 日本の場合は、そこを調書という形で行っています。そのため「調書には自分の言い分と違うことが書いてあって、無理やりサインさせられた」ということを主張する人が出てきて、調書自体の内容が本物かどうか裁判で争われてしまうこともあります。取り調べの時点で録音しておき、本人が何を話したか残しておけば、捜査側が被疑者を有罪に追い込む時のためだって証拠となる。そういう形で行うものが取り調べであるはずです。
──被疑者の身柄を拘置所に移せば、このような問題は解決しますか。
 大きく解決するのは、管轄が違うため夜中の取り調べはできなくなること。もちろん拘置所の取調室の中でも人権侵害は起こる。(いわゆる「鈴木宗男事件」で逮捕され、検察による拘置所で取り調べの様子を書いた佐藤優著「国家の罠」を例に挙げ)あれだって異常な取り調べですが、自白強要のされやすさ、人権侵害の起こりやすさでは、拘置所と留置所では質的な差異があります。
 もう一つ大事なのは、拘置所はかなり長期間人を置くことを前提にしているから、中で病気になったら医者に診てもらえることです。拘置所には医者がいますが、留置所には医者がいない。病気になると近くの病院に連れて行くことになっているが、実際、留置所ではなかなか連れて行ってもらえないし、被疑者が病気になって治療が不十分で死んでしまった事件が多くあります。
──代用監獄では、警察が被疑者を罵倒(ばとう)したり、人格攻撃しているという証言がありますが。
 日本の警察留置所における取り調べの大きな特徴でしょう。殺人事件の取り調べでも、死体の写真を見せて「謝れ」と言ってみたり、線香でいぶしたりする。倫理的にお前は謝るべきだと迫りますが、これはもう事実を確認するための取り調べではありません。だから、こうした異常なことが起こります。もっといえば、公安事件型の捜査の場合、もう事件なんてどうでもよくて、その被疑者が活動から離れさせることが目的だったりします。「やめます」って言った瞬間に取り調べが終わって釈放されて終わりになります。
──非常に恣意(しい)的ですね。
 何十年も続いていることですね。しかし、すべての刑事事件でこのような取り調べが行われているわけではありません。普通の刑事事件で、なおかつ本人が事実を認めていれば、おだやかな取り調べのようです。取り調べに呼んでやるっていわれて行ったらカツ丼が出てきて、「ごくろうさん」って感じで雑談しながら、一緒に共同作業で調書をまとめているのが普通だと思います。しかし、こういった状況も変だし、本当に根掘り葉掘り聞いて、まったく無駄。欧米のように2時間きちっと尋問してテープに撮っておけば十分です。よくて無駄。悪くて人権侵害だから、やめてほうがいいのではないでしょうか。(つづく)

代用監獄問題とは何か(下)

2006年05月01日07時32分 / ライブドア・ニュース

海渡雄一弁護士に聞く

【ライブドア・ニュース 2006年05月01日】− えん罪の温床などと指摘されている代用監獄であるが、ここに来て新たな動きが出てきた。容疑者や被告ら判決の確定していない「未決者」の処遇改善を目的とし、政府が国会に提出した「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案」がそれだ。4月18日に衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決され、現在は参院で審議されている。
──今回の法案を、どう評価されていますか。
 代用監獄は廃止にはなりませんでしたが、いくつかの点で進歩がありました。代用監獄を代用でなくし、いわゆる“警察監獄”のようにすることを警察はもくろんでいましたが、そういった野望は打ち砕かれ、今まで通り代用監獄になりました。代用である以上、いつかは廃止されるべきものだというニュアンスがそこには含まれています。もう一つは、留置施設の視察委員会をつくり、一般の市民が弁護士などを含めて、人権侵害がないかどうか検分できる仕組みができます。日本弁護士連合会としては、近い将来、代用監獄の廃止を政府に約束させたいと思っています。
 今回は監獄法の改正になりますが、刑事訴訟法の改正に手をつけないといけないでしょう。たとえば、弁護人がついて、取り調べの録音などができるようになれば、代用監獄の中で目に見えた人権侵害は起きにくくなっていきます。そうなると、警察にとって代用監獄制度が意味がなくなっていくかもしれません。現在の代用監獄は、自白を取るための装置です。弁護士会としては、制度そのものを廃止に追い込むことが困難な中で、代用監獄の自白を強要する機能そのものを弱めて「安楽死」させることも考えています。警察がいらないといったら、代用監獄はなくなるでしょうから。
──代用監獄の問題は、裁判で自白に証拠の比重が置かれていることが背景にあるのですか。
 そう思います。欧米では自白する人は珍しいようです。訴追する側が証拠を集めてこないといけないわけで、被疑者は協力する必要がないという考え方です。これは、日本人の罪の考え方と違いますね。日本人の罪に対する感覚を変えていないといけないと思います。
 一番のポイントとなるのは、犯罪を犯したとして逮捕された人の中には、誤認逮捕の人もいるということです。その人たちに対して、全員頭を下げろという圧力がかかっている状態では、間違いが正されない可能性があります。確かに捕まった人の9割ぐらいは本当に犯罪を行った人かもしれませんが、それは検事側が立証すればいいことです。そこが日本人の感覚だと、捕まった人間は99.99%以上有罪の人間だから、自白していないことは許されないことだとなってしまっています。
──報道にも問題がありますか。
 よく、誰それが逮捕され、厳しく追及しているところだとか、容疑者はまだ自白していませんとか伝えていますが、それは変です。その人は、もしかしたらやっていないかもしれません。報道では、逮捕された容疑と、捜査側、容疑者側の主張を伝えればいいだけだけだと思いますが、日本の場合は、一人の被疑者の捕まえたら血祭りに挙げないといけないという感じがあります。
 スウェーデンでは、だれが捕まったかもわからない匿名報道です。それは、被疑者への偏見を煽(あお)らないためなのですが、日本のマスコミもこのように伝えるようになったら、刑事司法も変わると思います。【了】

ジンベイザメ