九条を守る神奈川高校教職員の会

毎日新聞 ひと

アーサー・ビナードさん(44)

「核の平和利用」の虚構を切る米国人詩人

 「放射性物質は村正の日本刀よりも鋭い。被ばくしてバサッとやられると、まさに鼻唄三丁はずり」。知らぬ間に人体を傷付ける放射線を生む原発を、落語ネタで斬る。つじ斬りに遭った人が気付かずに歩き続けたとの内容。福島第1原発事故後、核の危険性を語る巧みな話術が関心を呼んでいる。
 日本語に興味を持ち、米国の大学卒業式を待たず90年に来日。落語の寄席に通い出した。95年に初めて広島を訪れ、「ピカドン」という言葉に出合った。原爆を落とされた側の体感から生まれた呼称と知り、視野が広がった。
 少年時代、米国の自宅に父親が好きな画家、ベン・シャーンの画集があった。ビキニ環礁での米国の水爆実験(54年)で死の灰を浴びた第五福竜丸。圧倒的な力強さを持つシャーンの絵をテーマに06年に本を出版しようと、実験の歴史的背景などを調べた。アイゼンハワー米大統領が1953年末、「平和のための原子力」を打ち出し、日本でも原子力時代への夢が語られていたと知った。「軍事利用の行き詰まりをカムフラージュしたペテンだ」
 「核の平和利用」の虚構。次作本の構想を進めていた時に東日本大震災が発生。広島に部屋を借り、広島原爆資料館で弁当箱や靴、時計を見つめる。遺品に語らせ、モノに宿る人間の営みと、原爆から原発につながる物語を紡ぎ出さなければいけないと思っている。
文・加藤小夜 写真・西村剛
Arthur Binnard 米ミシガン州出身。東京都在住。詩集「釣り上げては」で01年中原中也賞。詩人の妻・木坂涼さんと2人暮らし。
『毎日新聞』2011年12月22日(水)付

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